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広島高等裁判所 昭和40年(う)449号 判決 1969年9月11日

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、記録編綴の被告人堀井憲雄の弁護人石角一夫作成名義の、被告人山田秀行の弁護人上山武作成名義の各控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

被告人堀井憲雄の弁護人石角一夫の控訴趣意第一点(事実誤認の主張)について。

所論は要するに、被告人は本件輸出手続の一切を他人に一任していたものであるから違法な事実の認識がなく、従つて犯意がないことに帰するのに、有罪認定をした原判決は事実を誤認したものである、というのである。

記録を調査して検討するに、原判決挙示の各証拠を総合すれば、原判示事実は優に肯認することができる。すなわち右証拠を総合すれば、被告人は本件輸出手続に直接関与し、尹良寿と共に手持円貨で輸出貨物を購入する一方、右尹良寿を介して河元介或は山田秀行からそれぞれ輸出貨物代金前受証明書を買い受け、右山田に依頼して輸出申告書に外国為替公認銀行の認証を受け、自ら所轄税関に右輸出申告書を提出して輸出許可を受け、貨物を北朝鮮に輸出したものであることが認められる。被告人は本件輸出手続は他人に一任し関与していない旨の被告人の原審公判廷における供述は信用性がない。

従つて原判決には、所論のような事実を誤認した廉はなく、論旨は理由がない。

同第二点(法令適用の誤りの主張)について。

所論は要するに、原判決が原判示事実に関税法第一一一条を適用したのは法令の適用を誤つたものである、というのである。被告人は右のとおり他から輸出代金前受証明書を買い受け、輸出申告書に外国為替公認銀行の認証を受け、これを税関係員に提出して輸出許可を受けて貨物を北朝鮮に輸出したものであるが、輸出代金の決済方法が、輸出代金前受方式による場合は標準決済方法として通商産業大臣の輸出承認は要しないものとされているが、輸出貨物代金前受証明書の譲渡は禁止されているものと解すべきであるから、輸出代金前受方式による輸出は、実際に貨物を輸出する者が、その貨物の前払代金として支払われた外貨を銀行に売却して得た日本円貨により輸出貨物を購入すべきものであるのに、被告人は手持円貨によりわが国において購入した貨物を輸出するに当り、他から買い受けた輸出貨物代金前受証明書を利用して輸出申告をなしたもので、被告人の本件輸出は一種の無為替輸出となり、標準外決済方法によるものとして輸出貿易管理令第一条第一項第三号により通商産業大臣の書面による承認を受けなければならない。そしてこの場合には通商産業大臣の承認を得たうえ外国為替公認銀行に輸出申告書並びに付属書類を提出してその認証を受け、これを税関に提出しなければならないものであり、税関係員のなす輸出許可は、右輸出申告書等の内容が虚偽でないことを必要条件とするものと解すべきである。しかるに被告人は手持円貨により購入した貨物を輸出する方法として、標準決済方法によつたものではないのに、被告人の貨物とは全く関係のない他から買い受けた輸出貨物代金前受証明書を利用して、恰も標準決済方法により輸出するように装つて税関係員に輸出申告をして欺罔し、形式上の輸出許可を受けたのに過ぎないのであつて、右のような輸出許可は、重大かつ明白な瑕疵のある行政行為として実質上無効と解すべきであるから、被告人の本件所為を無許可輸出に該当するとし、関税法第一一一条を適用した原判決は正当であつて、原判決には所論のように法令の適用を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。

被告人山田秀行の弁護人上山武の控訴趣意について。

所論は要するに、被告人の原判示第二、第三の各所為を無承認輸出、虚偽申告及び無許可輸出の各幇助に、原判示第四の所為を無承認輸出に該当するとした原判決は、事実を誤認し法令の適用を誤つたものである、というのである。

記録を調査して検討するに、原判決挙示の各証拠を総合すれば、原判示各事実は優に肯認することができる、所論は被告人の捜査官に対する供述調書は信用性がない、被告人には本件各犯行について犯意がない旨主張するのであるが、記録を精査するも被告人の捜査官に対する供述調書の信用性を疑うべき資料はなく、右供述調書によれば、被告人は犯意を持つて本件各犯行を犯したことを認めるに十分である。

被告人の原判示第二、第三の各所為は、被告人が自己の所持する外貨交換済証明書或は外国為替公認銀行で認証を受けた輸出申告書を他に譲渡すれば、譲受人らがこれらを利用して税関に輸出申告をすることを認識しながら、自己の所持していた外貨交換済証明書或は銀行認証のある輸出申告書を他に譲渡し、譲受人らをしてこれらを利用して所轄税関に対し輸出申告をさせ、税関係員の輸出許可を受けて貨物を輸出せしめたものであり、原判示第四の所為は李乗丁と共謀のうえ、他から入手した輸出貨物代金前受証明書を利用して輸出申告書に外国為替公認銀行の認証を受け、所轄税関に輸出申告をして輸出許可を受け、貨物を韓国に輸出したものであるが、外貨交換済証明書或は外国為替公認銀行の認証のある輸出申告書の譲渡は禁止されているものと解すべきこと、従つてこれらの譲渡を受け、これらを利用し輸出申告書を税関に提出して輸出許可を受け、貨物を輸出した場合には無許可輸出、無承認輸出に該当することは被告人堀井憲雄の控訴趣意第二点において説示したとおりであり、また関税法第一一三条の二の虚偽申告罪は所論のように同法施行令第五八条所定の事項を偽つて申告した場合のみならず、輸出代金の決済方法を偽つて申告した場合も含むものと解すべきである。従つて、外貨交換済証明書或は銀行認証のある輸出申告書の譲受人らが、これらを利用して所轄税関に輸出申告をなし、輸出許可を受けて貨物を輸出することは無承認輸出、虚偽申告及び無許可輸出に該当するから、譲受人らがかゝることをなすのを認識しながら、同人らに対し、自己の所持する外貨交換済証明書或は銀行認証のある輸出申告書を譲渡して同人らの右犯行を容易ならしめた被告人の原判示第二、第三の各所為が、無承認輸出、虚偽申告及び無許可輸出の各幇助に該当すること、また原判示第四の所為が無承認輸出に該当することは明らかであり、原判決には、所論のように事実を誤認し法令の適用を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条に則り本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

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